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リチャード先生インタビュー(後編)

特に突き抜けた可能性をもつ子どもに向けた、無学年制の探求型学校として2023年4月にスタートするSEISAアカデミーの準備メンバーである、リチャード・キース・ゴードン先生に、その思いを聞きました。(後編)

教員には、知識経験より理念を

_教員の役割が非常に重要ですが、どのようなことを教員の資質として求めていますか。

 仲間と一緒に働くということが大事で、自分を信じること、一緒に働く人を信じること。その先にのみ、子ども達との世界が広がっています。たくさん「いい先生」はいますが、私達が一緒に働きたいと思うのは、共生の理念を理解しているということになると思います。

_PBLのガイドとして求められる役割は、教師は五者(学者、芸者、役者、医者、易者)であれというような非常に高いレベルを求めているように思えますが、スキルや知識、経験以上に理念への思いを重視するということですか。

 その通りです。私が若い教員だった頃の話をお伝えします。

 学校のサマーキャンプに、孤立した男の子がいました。隣のクラスの子です。誰も彼と良い関係をつくることはできませんでしたが、唯一私だけは、その時彼と通じ合うことができた。
 そして次の年、またその彼とサマーキャンプで会いました。彼はまだまだ問題のある生徒でした。彼と関わる場面があり、その時彼は座って私を見て、こう言いました。

「去年あなたは僕の友人だった。しかし今年はもう友人ではない」

 私はとても傷つきました。何が変わってしまったのか、すごく迷いました。一つ思い当たったのは、それまでの1年間で、私は心理学や学校経営など色々な勉強をしたのです、もしかしたらそのことが、彼とのつながりを断ってしまったのかもしれないということです。教育システムや学級経営を知ったことで、私は彼を「悪い生徒の一人」と位置付けてしまうことになったかもしれない。
 この経験により、私はまた自分の姿勢を変えていかなければならないと思い知らされました。

 若い先生方には、是非このことを伝えたいと思います。

 大人達には理念をもって子どもたちと関わりを持てるようになってほしいと願います。この新しい学校で働く人たちは、共生の理念について具体的・実践的に行動し、取り組むことになるのは間違いないでしょう。

子どもを支える環境づくり

_他に組織として、どのような体制を整えたいと考えていますか。

 カウンセラーの人たちがいて欲しいですね。病院にいるカウンセラーのことではなく、総合的に子どもたちを見て、その子の問題と向き合うことを通じて、背景にあるご家族の問題も見ることができるような人が必要です。
 また教科別の専門家も必要です。子どもたちに専門性を身に付けて欲しいのであれば、そこは外せないと考えます。教育に関わる職業の人達は皆、子ども達がもつ可能性を外のリソースと結び付けて、一定のレベル以上に高めていくことが役割だと考えます。
 教室の中に生徒がいて、授業をすることだけが役割ではなく、児童生徒一人ひとりの可能性を見出し、心の導火線に火をつけるということ。そして、教室全体の運営をすることも、重要な役割です。

 生活のための仕事としてやるというよりは、人生をかけたミッションとして、自身の生きがいとして取り組むことで、収入以上のものを得る経験になると思います。


リチャード・キース・ゴードン
星槎大学教授  博士(教育学)(1978年 カリフォルニア大学ロサンゼルス校)
小学校教員を経て、複数の大学で教育学、教育工学の研究を行う。


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