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リチャード先生インタビュー(前編)

特に突き抜けた可能性をもつ子どもに向けた、無学年制の探求型学校として2023年4月にスタートする予定のSEISAアカデミーの準備メンバーである
リチャード・キース・ゴードン先生に、その思いを聞きました。(前編)

プロジェクトのブロックが積み重なる

_SEISAアカデミーは、年齢に縛られず、高い知的好奇心に応えていく学校であるという点の他に、多様な人々が共に生きていくために必要なこと、共生社会に必要な、例えば星槎の3つの約束「人を認める、人を排除しない、仲間を作る」に表現される理念によって運営されることは大きな特徴ですが、これはどのように生徒に伝わっていくのでしょうか。

 例えばスポーツのコーチングでは、明確な期限を示して勝つ、という目的があります。
 しかし共生の概念は一時ではなく、一生涯続く、長いスパンで仲間と生きていくということが前提にあります。共生の概念はコミュニティとの結びつき、家族との結びつきを強めます。常に皆さんの心の中にあるということです。

 子どもたちの年齢を考えると、ああしなさいこうしなさいと指示を出すのではなく、協働を経験させることです。「今日のプロジェクトパートナーはAさんとBさんで、こんなことをしましょう」と伝え、探索発見できるような環境づくりを考えています。それを通して、自分達で少しずつ気づいていくのです。
 4-5週間の期間を1プロジェクトとして、子どもたちの個性が出るパートナーの組み合わせを考える。1人ひとりのいい部分、苦手な部分がうまくかみ合う組み合わせが大事だと思います。自分にない力をもつ仲間との関わりを通して、自分自身を振り返ることができ、自分の強さを理解し、誰かと一緒に働くことができるようになる。お互いが認め合うということを体現する場になるでしょう。

 ひとつ私の経験を話します。遠くから遊びに来た友人を、私は車で空港へ迎えに行きました。
 すると、フライト中に近くに座った人3人と友達になったと言って一緒に降りてきて、君の家にいくついでに、この3人も送ってあげてよと頼まれました。私は飛行機ではじっと黙って座っているタイプですから、なぜそんなことが起きるのか大変に驚きました。
 しかし、あの会話のスキル、人懐っこさ、私に足りない部分を彼は気づかせてくれました。やかましい奴とか、落ち着きがないと「評価」をするのではない。彼にはそのスキルがあって、私に足りない部分を気付かせてくれる存在だと「認める」のです。

 こうしたことが、PBLを通じて子ども達に起こります。例えば彼のようなタイプ同士でずっと一緒にいても何も生まれない、ただひたすら好きにしゃべり続けるだけでしょう。一人ひとりがもつ力の組み合わせの采配が、先生の腕の見せ所の一つだと思います。

 そして、1つ1つのプロジェクトは、次の学びへ繋がっている。それをガイドするのも教員の役割です。プロジェクトメンバーは友達である必要はなく、共にその時学ぶメンバー、自分と異なる力をもつメンバーです。失敗もあるでしょうし、そのメンバーとはうまくいかないこともあるでしょう、しかしプロジェクトがいくつも積み重なり、最終的には共生の理念に接続されている。だから教員がよくその理念を理解していなければ、これはうまくつながっていかないのです。

生活を共にする学校

 どんな形であれ、机に座っているだけではなく、関わり合い、生活をも共にするという点は非常に重要だと思っています。異なる年齢の子ども達があつまり、年下のこどもの面倒を見る、服を洗うことや繕い物をする、そんなところを含めて生活を共にすることは、基本的なことであり、子どもにとって刺激があると思います。

 想像してみてください、全てを両親に世話してもらい、自分のことだけを見て机の上だけの勉強を経て社会へ出る子どもたちと、生活段階から自分で苦労やりくりしながら学び、社会へ出る子どもたち、どちらが自立しているでしょうか。その違いは明らかなのです。

 ですから、最初のサマーキャンプのテーマは「火と食」、短い期間でも生活を共にすることと、人間の暮らしに密接な切り口から、つながりを自分達で探り、体験して学ぼうと試みます。

 また、共にサマーキャンプに参加予定で、ニシローランドゴリラにも、ピグミー族にも大変造詣の深い西原智昭先生と話していて、非常に興味深かったことがあります。欧米の学びは常に目的が設定されそれを目指すという形式ですが、アフリカの部族において受け継がれてきた学びは、学校自体は勿論あるけれど、主に学校の外に興味深い学びが深く広がっている。教わるのではなく、支え合い学び合うこと、調べて発見すること、自分なりの理解を得ること。こうした点も、サマーキャンプでは強く意識しています。


リチャード・キース・ゴードン
星槎大学教授 博士(教育学)(1978年 カリフォルニア大学ロサンゼルス校)
小学校教員を経て、複数の大学で教育学、教育工学の研究を行う。

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